■ 涙液層破壊時間 tear film break-up time (BUT)

 涙には涙腺から分泌される水分のみではなく、電解質、タンパク質、脂質やムチンといった他の成分も含まれています。 一般に、細胞の表面は脂質層を覆っています。角膜や結膜の眼表面を構成する上皮細胞も同様であり、そのままでは、水(H2O)との間に親和性が低い疎水性(hydrophobic)の状態であり、 涙の水分(涙液層)と馴染みにくくなります。このため、これらの細胞表面に発現される両親媒性(amphiphilic)を有する膜型ムチンを細胞表面にコーテイングすることで、 液層と馴染みやすくなり、涙の安定化を保っています。また、涙液層には結膜杯細胞から分泌された分泌型ムチンも混在しています。一方、この涙液層の最表面には、 眼瞼縁にあるマイボーム腺から分泌され形成された油層により、涙の蒸発を防いでいます。よって、何らかの原因で涙のこれら構成成分に異常が生じれば、 涙の量的あるいは質的な変化を来して、その結果引き起こされた角結膜障害、すなわちドライアイが発症します。
 涙液の量的異常を評価する代表的な検査にシルマー (Schirmer) 試験があります。その一方、質的異常を評価する検査に 涙液層破壊時間(tear film break-up time (BUT))があります。涙にフルオレセインという蛍光色素を溶かすことで、眼表面における涙を可視化ができ、 涙液層(tear film)が崩れ始める時間を計ることで涙の安定性を評価します。正常では角膜表面で10秒は保つことができますが、5秒以下はドライアイの診断基準の一つとなります。
 瞬目(まばたき)は男性で20回/分、女性15で回/分、このことから、3〜4秒に1回の割合で無意識に瞬きをしています。目を使って集中してくると、その回数が減少し、 BUTが短縮している場合は、さらに眼表面は乾燥傾向となり、「目が乾く」という症状の他に、色々な不定愁訴を訴えてきます。