■ 後部硝子体剥離 Posterior Vitreous Detachment (PVD)

 眼球内には、透明なゲル状の硝子体(Vitreous)が充満しており、これが収縮(shrink)することで、硝子体が網膜内面から剥離し、有形硝子体と液化硝子体に分かれます。 透明性が欠けた糸状やクモ状あるいは索状の混濁が眼内に浮遊することになり、これが網膜に影として投じて、 様々な形で(生理的)飛蚊症(floaters, myodesopsia)として自覚します。コントラストの関係で自覚しますので、背景が明るいところでは自覚しやすく、 逆に暗いところでは気づかないこともあります。また、経過とともに混濁の程度が軽微となれば、硝子体の変化は残るものの、飛蚊症は 自覚しなくなります。硝子体は、網膜周辺部、視神経乳頭、網膜血管と癒着しています。視神経乳頭周囲では、Weiss ringとして、リング状の混濁となり飛蚊症を自覚します。 硝子体が収縮し、網膜周辺部を牽引すれば、それが刺激となり視野の周辺で光が見える光視症(photpspia)も自覚します。 また、視神経乳頭や網膜血管で硝子体の牽引が働くと、血管が切れて網膜出血硝子体出血を来すこともあります。 網膜周辺部で硝子体収縮により強い牽引が生じたり網膜に脆弱なところがあると網膜が破け、網膜裂隙(retinal break)が起きることがあります。網膜裂隙には、馬蹄型の網膜裂孔(retinal tear)や 円蓋(operculum)を伴う網膜円孔(retinal hole)などがあります。 さらに、液化硝子体が網膜裂隙を経由し網膜10層のうちの網膜色素上皮層と網膜視細胞層の間に入り込むと、視細胞層を含む神経網膜は眼球内壁から剥がれ、裂孔原性網膜剥離( rhegmatogenous retinal detachment)という疾患になります。剥離した神経網膜にある視細胞層は、本来、眼球内側の脈絡膜から栄養を供給されていることから、網膜剥離により栄養物質の輸送が途絶えると、 視細胞のダメージを引き起こし、視機能に重大な障害を残すことがあります。網膜には触覚や痛覚はありませんので、網膜裂隙や網膜剥離は痛みを伴いません。 これらの飛蚊症や光視症あるいは視野異常などの症状で受診され発見さますが、特に症状もなく、またまたの散瞳剤を用いた眼底検査で網膜裂隙が見つかることもあります。 尚、後部硝子体剥離の発生は加齢と伴に増加しますが、危険因子として、近視、眼内炎症、眼手術(白内障手術)、鈍的外傷が挙げられています。